仕方アルマジロ

大学生活の記録

たけさんぽ 第一弾 台風19号一過巡検

 我が国を襲った忌々しき台風19号が遥か北方へと過ぎ去り、痩せ衰えて洋上に消滅するという醜悪な最期の姿を晒した10月13日、私は夜中に騒々しかったこの台風による影響を観察するための巡検と銘打って、ただの日帰りの放浪の旅へと出かけた。

 色々と台風一過特有と思われる景色の写真が撮れたので、一応世間様に共有しておきたいと思い立ち、その道中を記事にすることにしたのであるが、今後もこのような時事ネタを扱った、あまりアカデミックな内容ではないレポートを書くことがあるだろうと思い、シリーズ名をつけることにした。

 それこそが表題からもお分かりの通り、「たけさんぽ」である。私のペンネームの諱部分である「武一」に由来するシリーズ名なのであるが、私は他人の意見を横取りして我が物顔に扱うことが好きではないので、これを考えたのは大学の友人であることをここではっきりと示しておく。本当はこの「たけさんぽ」は、友人たちに現在執筆中の夏の中山道旅行のシリーズ名を募集した際に、案の一つとして出たものの、シリーズ内容にそぐわず不採用とさせていただいた案なのであるが、なかなかに語感が良く、無下にするのもあまりに忍びなかったので、ここで使わせていただく運びとなった。

 

 さて、遅い起床の後に表へと足を踏み出した私は、早速転がっている壊れた傘や、風になぎ倒されたと思しき愛用の自転車などに驚かされ、また浸水を防ぐためにマンションの入り口に並べられた土嚢などに非日常を感じさせられたのであるが、これらの写真を貼って自宅特定され、狂人の凶刃に倒れるのも癪であるので、ここでは割愛させていただく。

 前日からずっとニュースで川の氾濫の話を見聞きし続けていた私は、東京の河川が今どうなっているのかをこの目で見てみたいという好奇心が湧き、ひとまず東京湾に注ぐ多くの河川が集中する東京東部へと向かうことにした。

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 そうしてやって来たのが隅田川である。315号線の橋の上から、澄んだ青空に聳えるスカイツリー方面を眺めると、なるほど確かに水がなみなみとして見える。心なしか水が濁っているようにも感じられるのは、きっと上流で多くの土砂を呑んだからであろう。そこから私はさらに東へ進み、荒川を目指した。

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 14号線の中川新橋から、北東方向に旧中川を望む。これもかなり水量が増しているように見え、水面が緑地付近すれすれにまで迫っている。ここから東へ進めば目的の荒川はもうすぐだ。

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 国道14号線脇から荒川土手の線へと達した私は、そのまま江戸川を目指そうかとも迷ったが、結局西側の河岸を南進することにした。土手下の河原には草木が生い茂っており、あまりしっかりと川面を見ることが出来なかったが、旧中川が合流する荒川ロックゲート付近に達したあたりで視界が開けたので、ここで多くの写真を撮影した。
 私は川面をまじまじと覗き込んで驚いた。ミルクティーかと見まごうばかりに濁った土色をしているのである。上流でいったいどれほどの土砂が流入したのであろうかと考えると、想像を絶するものである。

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 そのまま南下を続けた私は、しばらく後に遂に河口へと達した。湾岸線の橋のシルエットと葛西臨海公園の観覧車が青空によく照り映えている。東京湾から吹き込んでくる潮風が心地よい。

 付近の道端には「新砂」と書かれた駅のような看板の表示があったので、よく見てみると船着場のようであった。周囲にチケット販売所や案内所、路線図のような施設は無かったが、どのような航路でどのような目的の船が運用されているのであろうか。謎は深まるばかりである。

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 一応台風の影響の巡検と銘打って家を飛び出したので、周囲でそれらしきものを探してはみたが、見つかったのは川面に浮かんだ大きな流木程度であった。海を目指してどんどん流れていくが、一体どこから来たのであろうか。それは本人だけが知っていることである。

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 船着場の脇から更に川辺へと降りていくと、川面へと続く階段の最下段に大量の泥が堆積し、干上がって固まりかけているのが見て取れた。おそらく水位が少し前までこの段まで上昇しており、河川によって運搬された土砂が堆積した後に水が引いたのであろう。人の足跡や自転車の轍、更には水鳥の足跡がはっきりと残っていて面白い。まるでそのまま化石になりそうな勢いである。

 私はその傍らに大量のカニがあることに気づいて腰を下ろし、顔を近づけたのであるが、やがてすぐにそれらに何か違和感があることに気がついた。皆死に絶えてじっと動かないのである。文字通り立ち往生したカニの骸が静かに立ち並ぶ光景は異様なものであった。死因が何であったのかは分からないが、恐らく増水や水の濁りなど、台風に関わる何かであることは間違いないであろう。私は標本のように綺麗な形を留めたままに死に絶えたカニたちのその姿に、単なる儚さのみならず、どこか形容しがたい不気味な美しさを覚えた。

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 そんなカニたちの静かな地獄には無関心とでも言うように、台風の影響などものともしないかのごとく、平和そうに川面に浮かぶ水鳥たちの姿を見ながら、私は踵を返して河原を後にした。その折、川の方向に対しても「新砂 リバーステーション」という船着場の看板が立てられていることに気がついたが、船がやってくる気配は一向になかった。

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 その後私はお台場方面へと向かった。こちらで観察できた生々しい台風の被害は、有明コロシアムから伸びる484号線上の道路脇にある街路樹が、その支柱とともに倒れたらしく、その残骸がトラックに乗せられて撤去されている様子程度であった。被害が少ないのは何より喜ばしいことである。

 確か484号線の豊洲大橋からであっただろうか、水産庁の東光丸という船舶が停泊している様子が観察できた。

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 最後に、確か同じく484号線上の富士見橋から撮影できた、美しい風景写真を掲載して終わろうと思う。橋の上から西を向くと、美しく夕焼けに染まったレインボーブリッジを、反対に東を向くと、ビルの合間から顔を出した輝かしい満月を観察することが出来た。一地点から同時にこのような美しく、対照的な景色を満喫することが出来たのも、台風一過の澄んだ空気の賜物であろうか。

 様々な小さく身近な発見を重ね、大いに心を満たすことが出来た逍遥の一日であった。